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2025WIS Review: 風まちの創る空間

  • kikkajuku
  • 10月11日
  • 読了時間: 3分

 私自身、建築物の内外の空間がどのように広がっていくか、その空間によってコミュニティが生まれ、人と人が繋がっていくことに興味を持っている。そのため、津留崎さんが手がけているプロジェクトにはとても興味を惹かれ、多くの部分で共感することができた。常に新しい風を吹かせようとする姿勢にも強く刺激を受けた。

 「風まち下田」という名前には、津留崎さんの深い想いが込められている。「風待ち」とは、出航を控えた船が都合の良い風が吹くのを待つことを意味する。1854年にペリーが下田へ来航して以来、さまざまな国の人が行き交ってきた下田。この港町には「風待ち」という言葉が自然に馴染んでいたのだと思う。一方で、津留崎さんは「待ち」という言葉には“受け身”の印象もあると感じ、あえて「まち」とひらがなにしたそうだ。風を待つのではなく、自ら風を起こし、地域をもっと華やかにしていきたい——そんな想いがこの名前には込められている。

 津留崎さんご自身も移住者でありながら、地元の人と新しく来た人との間にある“見えない壁”をなくし、誰でもふらっと立ち寄れる空間をつくっている。新しい土地で一から事業を始め、人々を巻き込みながら「まち」を育てていくことは決して簡単ではない。それでも、特定の層を対象とするのではなく、「誰もが小さな挑戦をできる場」を提供していることが、風まち下田の温かさを生んでいるのだと感じた。たとえば、ママ友による服のワークショップや、中学生の家庭科部による料理イベントなど、地域の人たちが自分の得意や関心をきっかけに挑戦できる機会がある。こうした「自分の小さな興味を形にできる場」は、実は意外と少ない。興味を持っていても、それを共有する機会がなければ、ただの関心で終わってしまうことが多い。行動することで初めて新しい道が開かれ、人生のヒントが見えてくる。年齢や国籍、職業に関係なく、誰もが挑戦のチャンスを得られる環境こそ、人が自然と集まり、良い循環を生むのだと思う。

 「年齢も国籍も職業も、滞在の目的も本当にバラバラ。でも最近は、その“バラバラ”が自然に心地よく混ざり合うようになってきました。」——これは風まち下田の公式サイトの言葉だ。こう言えるようになるまでには、津留崎さん自身のたくさんの努力と、地域の人たちの協力や支えがあったのだと思う。下田という街に、内外から集まった人々が交わりながら、新しい時代の“まち”をつくっている。その姿に、場づくりの力を感じた。

 実際に訪れた空間も印象的だった。個人の作業をしながらも大きなテーブルを囲んで自然と人が繋がるレイアウト。卓球台をミーティングテーブルとして使うという遊び心。外のデッキには竹あかりが灯り、下田らしい温もりを感じる。地元の人と一緒に制作した色鮮やかな壁紙も印象的だった。東京でのバー経営の経験が、この“人の集まる場づくり”に活かされているように感じた。分野は異なっても、どちらも「人が集まり、関係が生まれ、場所が拠り所になる」という共通点があるのだと思う。

 このワークショップを通して、空間づくりとは単に建物をデザインすることではなく、「人と人の関係をデザインすること」なのだと感じた。津留崎さんの生き方や、風まち下田のような場所の在り方から、私もいつか

誰かの居場所やきっかけを生み出せるような空間をつくりたいと思った。

 
 
 

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